結婚ゆび輪は いらないと いった
朝、顔を洗うとき
私の顔を きずつけないように
体を持ち上げるとき
私が痛くないように
結婚ゆび輪は いらないといった
今、レースのカーテンをつきぬけてくる
朝陽の中で
私の許(もと)に来たあなたが
洗面器から冷たい水をすくっている
その十本の指先から
金よりも 銀よりも
美しい雫(しずく)が 落ちている
星野富弘